凍蝶の 己が魂 追うて飛ぶ 

(高浜虚子)

映画は大阪・淀川河川敷から始まる。

林立する梅田の高層ビル群を借景に、
犬やアヒルも同居する元ホームレス手作りの小屋。
「関西難民ディ」と称する焼肉パーティに集まったのはLGBTたち。
いずれも大黒堂ミロの仲間たちである。
ミロはゲイだ。「ゲイは子どもを産めないからアートを産む。
昭和のアングラ文化を私が引き継ぎたい」
漫画家・イベンター・バー経営など多彩な顔をもつミロの原点を
新世界に訪ねる。ディープサウスの妖しいスポット巡り。
映画はミロを交点に様々な人々が交錯する。

女装のあずみが梅田繁華街を闊歩する。

あずみは異形のトランスジェンダー。
昼間は男として働き、夜は仲間の集まる女装スナックに通う。
ホルモン注射を欠かさず睾丸も切除、女で死にたいと言う。

シモ―ヌ深雪のグラビア撮影が進む。

シモーヌは日本のドラァグクィーンの先駆けのひとり。
「ドラッグをやってる女装者と勘違いされるけど、
ドラッグではなく、ドラァグ!
ドレスの裾を引きずるという意味の英語からきた言葉。
皆な何も知らずに暢気に誤解している…」

パリ:谷敦志の写真展が開かれた。

エロティシズム美術館での写真展『眼球譚』。
フランスTV局が取材に訪れ、展示作品36点は完売した。
友人の異端鉛筆画家・林良文とゴッホ終焉の地に向かう。

奥深い寺を訪ねるDiedrich。

夥しい石仏石塔に囲まれ、独り佇む。
「人間じゃないものへの憧れは尽きることがなく…
男でもなく女でもなくDiedrichとして生きたい」
素顔からドラァグクィーンに変身、“夕顔楼”へ向かう。

関西アンダーグラウンド界の重鎮・彫修羅。

彫修羅は3年半の懲役を経て刺青師になった。
流行だけを追う若者には厳しく諭し、背負って生きる覚悟を問う。
「苛虐と非苛虐の二律背反を抱き…デカダンスで光なし。
わたしはコンプレックスの塊です」『自滅日記』朗読。

奈良少年刑務所を訪ねる倉田めば。

薬物依存の体験をもとに現在、カウンセラーを務める。
「薬物で妖怪になるのではなくアートで…」
パフォーマーとして詩人として、心を癒す。
「私はわたしを抱いた 抱いた時…」『孤独の温度』朗読。

ゴムフェチ・Wet & Messy

underlineは男性ゴムフェチ、ゴムにある皮膚感覚と
それに伴う呼吸制御に強い関心を持つフェティシズム。
aiは女性ウェット&メッシー、
濡れたり汚れたりすることに強い関心をもつフェティシズム。
被覆感覚を共有する二人のコラボレーションは大勢の若者で賑わった。

放禁ブルースシンガー・小林万里子。

「♪ 女は便所、男の便所~」「♪ 男はいつもレイプ・フィーリング~」
放送禁止を恐れぬ歌いたい放題の熱狂ライブ。

緊縛に魅せられたフランス人女性。

vivienneは在日13年。緊縛の美しさに惹かれ日本人に弟子入り、
今、緊縛調教師として人体改造アーティストの夫と世界を回る。
黄昏の京都の町屋。緊縛刺青美人画の小妻容子追悼原画展では、
MINAが蝋燭の灯りの中で舞い狂う。

神戸の夜を支配する魔女MIDORI。

SMパフォーマーMIDORIはフェティシュバーIDEAのオーナーだ。
「エロを求めて来られても困る。低俗なものではなく文化として…」
3周年のイベントに名だたるアーティストたちが集まった。
クライマックスのサスペンション、女体が宙を舞う。

彼らは、いずれも“異族”ではない。

私たちを映す“鏡”。フツーの私たちと同じように、フツーに生きている。
私たちと同じ鬱屈を抱え、私たちと同じ世界・同じ時代を呼吸している。
そこに、もし少し違いがあるとするなら、
“比べないこと”・“排除しないこと”だろうか。
彼らは“写し鏡”である以上に、私たちの“鑑”なのだ。